クルミが「睡眠ホルモン」を増やす~2025年度研究で!

睡眠の質を高めるために、寝室の環境を整えたりスマホを手放すことはよく知られた方法だが、2025年にバルセロナ大学が行い「Food & Function」誌に掲載された臨床試験では、夕食時に食べるものが睡眠ホルモンの分泌量を左右することが明らかになった。


その食材とは、クルミだ。

この試験は76人の若い成人を対象に、夕食時に40gのクルミを食べる期間と食べない期間を設けた交差試験で、約8週間にわたって実施された。測定項目は、メラトニンの代謝産物である「6-スルファトキシ-メラトニン」の尿中濃度、加速度センサーによる睡眠の質(入眠潜時・中途覚醒・総睡眠時間)、そして日中の眠気尺度の3つ。結果として、夜20〜23時のメラトニン代謝産物がコントロール期間と比較して有意に上昇し、入眠までの時間が短縮され、日中の眠気も明確に低下した。

なぜクルミにこれほどの効果があるのか、クルミの効能を構成する成分から読み解くと興味深い。クルミ40gにはトリプトファンが84.6mg含まれており、このアミノ酸は体内でセロトニンを経て最終的にメラトニンへと変換される。さらに注目すべきは、クルミには植物性のメラトニンそのものも含まれている点だ。サプリメントと比較すれば微量であっても、前駆体と完成形を同時に摂れる食品はそう多くない。

加えて、ビタミンB6がトリプトファンからセロトニンへの変換を助ける補酵素として機能し、マグネシウムが睡眠調節に深く関与する。2022年に「Sleep」誌で報告されたアメリカのCARDIA研究では、3,964人を15年以上追跡した結果、食事からのマグネシウム摂取量が多いほど睡眠の質が良好であることが示されている。短期の臨床試験と長期の観察研究が同じ方向を示しているという事実は、単なる偶然とは言えないだろう。

クルミにはもう一つ特筆すべき特性がある。脳への関所である血液脳関門を通過する際、トリプトファンは他のアミノ酸と競合するが、クルミのアミノ酸比率はトリプトファンの通過に有利な構成になっている。つまり摂取した成分が脳内で実際に機能しやすい設計を、クルミはもともと持っているということだ。

さらに、クルミが含む抗炎症性のオメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸(ALA)も見逃せない。


ALAが直接睡眠を改善するエビデンスは現時点では限定的だが、全身の慢性炎症を抑制することで睡眠環境を整える可能性が指摘されている。

実践する際は、素焼きのクルミ40g(7〜8粒程度)を夕食時に摂るのが基本となる。クルミには脂溶性の成分が多く含まれるため、ドレッシングを使ったサラダに加えると吸収率が高まると考えられる。栄養密度が高い食材であるため、食べすぎには注意が必要だ。

薬や特別なサプリメントに頼らず、夕食の皿にクルミをひとつかみ加えるだけで睡眠ホルモンの分泌が変わる——この研究結果は、日常の食卓の選択が持つ力を改めて教えてくれる。